〈冷蔵庫開けば縦に凍りをり冬に巻かれしままの春巻き〉という巻頭歌で始まる、田村元の第二歌集は何?
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『昼の月』
『昼の月』は2021年(令和3年)に出版された、田村元の第二歌集です。2012年(平成24年)から2020年(令和2年)までの337首が収められています。
本歌集のメインテーマは、仕事、妻、酒、肴、食ではないでしょうか。
特に居酒屋、スナック、酒、肴など、お酒に関する歌が多いのが特徴です。また食べ物に関する歌も多く、読んでいると、思わず顔がにやにやとしてしまいます。
著者は本当にお酒と食が好きなのだなあと感じます。
その日の仕事が終わりに差しかかると、仕事終わりの居酒屋のことに気持ちは寄っていきますし、また旅先で入ったお店などもところどころに登場し、酒と食の時間を心から楽しんでいるように歌の数々から伝わってきます。
ですから読者であるこちら側も読んでいて楽しいですし、次はどんな場面のどんなお酒や食べ物が登場するのだろうと期待しながら、次のページをめくっていける一冊です。
また酒と食に限りませんが、読んでいて視点の鋭さを感じさせる歌があり、ストレートな詠いぶりの歌が並ぶ中に、ハッとさせられる歌が交じっている点も魅力的に感じます。
本歌集は著者の日常が色濃く出ていると思いますが、日常の中にいくらでも短歌のタネがあることを教えてくれる一冊です。
『昼の月』から五首
スナックの隅で湯割りを傾げつつかはりばんこに「あちち」と言へり
何年か前までは空だつたはずのフロアーで人とすれ違ひたり
まだわれの内のみにある焼きそばのイデアのために買ふ紅生姜
チャーハンの五合目にレンゲ差し込んでコップに春の水を飲み干す
鮭缶に温玉、刻みネギを載せいたしかたなく居酒屋たむら