人生の歌 #3

当ページのリンクには広告が含まれています。
人生の短歌

「人生は苦しい」(たけし)「人生はなんと美しい」(故モーツァルト)
永井祐『日本の中でたのしく暮らす』

永井祐の第一歌集日本の中でたのしく暮らす(2012年)に収められた一首です。

二人の言葉が並べられただけの構成の歌ですが、このように並べられることで、どちらかひとりだけの言葉だけでは見えなかったものが見えてくるように思います。

「たけし」というのは、映画監督・お笑い芸人の北野武(ビートたけし)のこと、そして「故モーツァルト」は音楽家のウォルフガング・アマデウス・モーツァルトのことを指しているのでしょう。

二人とも「人生」に対しての言葉となっていますが、一方は「苦しい」、もう一方は「なんと美しい」と述べられています。

反対の方向性にあるこれら二つの言葉からまず感じるのは、人生というのは捉え方次第であるという点です。

どのように捉えても「人生」は人生なわけであり、「苦しい」と思ってもひとつの人生ですし、「美しい」と思ってもそれはひとつの人生なのです。

もちろん長い人生の中で浮き沈みはありますから、その時々で苦しいと感じたり、美しいと感じたりすることはあるでしょう。ただそのような積み重ねで人生は進んでいくため、総合的に見て「苦しい」であったり「美しい」であったりという言葉に集約されて、発せられてくると思います。

もうひとつ見逃せないのは、モーツァルトに「故」がついている点です。

たけしの言葉を生の側からの発言とするなら、故モーツァルトの言葉は死の側からの発言となるでしょう。もちろんモーツァルトの言葉は、モーツァルトが生きている間に感じた思いが集約された言葉ではありますが、現在地点から見ると、たけしは生の側、モーツァルトは死の側に分類することができてしまいます。

となれば、今生きている人間とすでに亡くなった人間が残した言葉をそれぞれ現在地点から見つめるとき、それぞれの言葉が含んでいる、人生に対する考え方や感じ方は異なるであろうという対比を、この歌は提示してくれているように感じます。

人生をどう捉えるかはその人の自由です。この歌は、対極的な二つの言葉が並べられることによって、人生は捉え方でどうとでもなるということを感じさせてくれますし、同時に人生の時間的な要素も考えさせてくれる一首なのではないかと思います。

モーツァルト像
モーツァルト像
¥1,430 (2022/03/21 10:42時点 | Amazon調べ)

♪ みなさまの応援が励みになります ♪


俳句・短歌ランキング

ブログランキング・にほんブログ村へ

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次