〈その人と縁を切らないのはもはや努力不足、ってことになるね……」〉という巻頭歌で始まる、平出奔の第一歌集は何?
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『了解』
『了解』は2022年(令和4年)に出版された、平出奔の第一歌集です。2020年の第63回短歌研究新人賞受賞作「Victim」を含む作品が収録されています。
巻頭歌は、一連のタイトル「「ひととおり、聞いた感じぃ」とつながるように鉤括弧が使われており、タイトルと巻頭歌を一連なりで読む工夫がされています。
さて、本歌集の歌ですが、様式美を追究した短歌とは異なり、日常の会話にできるだけ近い印象を受ける歌が多いというのが特徴だと思います。
そこには、他者との関係において、現在の自分の境遇について、あるいは自分の過去の振り返りに対して、できるだけ臨場感をもって伝えようという意図が感じられます。
また表記の面でもかなり意識しているようであり、一字空け、二字空けに加え、半角空けまで用いられています。半角空けというのは初めて見ましたが、一字空けに比べ、見たときに空いているのか空いていないのかわかりにくいくらいです。しかし、その若干空いている感じが、そのときの状況をそのときの状況のままに伝えようという意識の表れなのだと感じます。
歌集名ともなった一連「了解」は、SNSを通じて知り合った相手との関係を、詞書を多用しながら綴ったもので、その歌数とともに読み応えのある作品となっています。
また「あとがき」も短歌と詞書で構成されており、こちらもあとがきというよりはひとつの作品として読んだほうがいいように思います。
とにかくさまざまな工夫がされており、刺激のある一冊です。
『了解』から五首
交通手段あふれる街と街にいて死にたいときにした死ぬ努力
明日の朝通勤できないくらい雪ふっててほしい 通勤はできてもいい
過ごしてる、生きるじゃなくて、毎日は寒かったり暑かったりしてる
空を見たら天井があって生きていてほしいのに死ねていてほしかった
夕立が 泣く、って涙が出てるってことじゃないじゃん 屋根を打ってる