傘の歌 #17

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傘の短歌

どれがわたしの欲望なのか傘立てに並ぶビニール傘の白い柄
魚村晋太郎『銀耳』

魚村晋太郎の第一歌集銀耳(2004年)に収められた一首です。

コンビニやスーパーの店先の傘立てでしょうか。あるいは職場の傘立てでしょうか。

白い柄のビニール傘はどこでも購入でき、多くの人々が使用しているため、共有の傘立てには同じようなビニール傘が何本も立てかけられるという場面はよくあることでしょう。

そのうちのどれかが主体が立てたビニール傘なのでしょうが、用事を済ませていざ傘をピックアップしようとするとき、さて自分の傘はどれだったかわからなくなることがあります。

傘に名前を書いていれば、あるいはリボンか何かを結びつけていれば、パッとわかるのですが、学校で先生からいわれている場合を除いて、そんなことをする人は稀かもしれません。

ですから傘立てに並ぶビニール傘を見たとき、「どれだったかな?」となるわけですが、それを「どれがわたしの欲望なのか」と表現しているところに注目すべきでしょう。

ここでいう「欲望」とは何なのでしょうか。なぜ「傘の白い柄」と関係があるのでしょうか。

傘をもつこと自体がそもそも何かしらの欲望の現れであるのかもしれませんし、傘の柄の形状が何か欲望を感じさせるのかもしれません。そしてその欲望は傘の数だけ存在するのです。欲望の具体的な情報ははっきりと示されてはいないのですが、「欲望」と「ビニール傘の白い柄」をつなげたところにこの歌が際立つポイントがあるでしょう。

また柄の色が「白」であるところに、どちらかといえば素直な欲望といいますか、純粋な欲望といいますか、欲望の中でも割とすっきりとしたものを感じさせてくれるのではないでしょうか。

傘の柄を見つめる目、すなわち欲望を見つめる主体の目の印象がいつまでも残り続ける一首です。

ビニール傘の柄が並ぶ
ビニール傘の柄
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