ラーメンを食べて歩める冬の街 豚の脂が歯に巻きつきぬ
吉川宏志『石蓮花』
吉川宏志の第八歌集『石蓮花』(2019年)に収められた一首です。
寒い冬、温かい食べ物が食べたくなりますが、ラーメンもそのひとつでしょう。ラーメン一杯を啜るひとときは心からあたたまる時間ではないでしょうか。
掲出歌のラーメンはとんこつラーメンだと思います。「豚の脂」がそれを表しているでしょう。もちろん「醬油豚骨」のようなラーメンもありますが、「脂が歯に巻きつ」くほどのラーメンですから、こってり濃厚のとんこつラーメンを想像しました。
ラーメンを食べた後、寒い冬の街を歩いている状況はよくわかる歌ですが、主体の思いはどのようなところにあるのでしょうか。
ラーメンを食べることができてよかったといった単純なものではなく、何とも複雑な思いがあるように感じます。歯に巻きつくと感じられるほどの豚の脂から、何か心の中にわだかまりや不安、納得いかないこと、すっきりしないことなど、このような思いがあるのではないかと想像します。
そのような思いを抱えた主体が歩む冬の街は、より一層寒さの厳しい様子が立ちあがってくるのです。ただ単にラーメンを食べて街を歩いただけでなく、そこにはラーメンを食べたことによってかえって寂しさのようなものが滲み出てきている主体の姿が表れているようです。
感情を述べた言葉はひとつもないのに、主体の感情へ思いを巡らしてしまう一首ではないでしょうか。
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