じきに雨やがて戦争ばらばらとクロワッサンは壊れるばかり
北山あさひ『崖にて』
北山あさひの第一歌集『崖にて』(2020年)に収められた一首です。
クロワッサンは、パンの中でも人気のあるパンです。何となく朝食向きのイメージがあります。
繊細なパンであるゆえに、食べるときにぼろぼろとパンの破片がこぼれてしまいます。
この歌は、戦争へたちまち傾いていく様と、クロワッサンの崩れやすさとのイメージをつなげている歌でしょう。
上句の「じきに雨やがて戦争ばらばらと」の細切れで畳みかけるようなリズムが、戦争はいつ急に始まっても不思議ではない様子を表現しているようです。
三句の「ばらばらと」という言葉は初句二句と下句との両方にかかるのでしょう。この三句によって、初句二句の「戦争」が突然始まる様や戦争によっていろいろなものが引き裂かれる様と、下句のクロワッサンがぼろぼろと壊れる様がつながれています。
クロワッサンの脆さは、人々の思考や行動がよからぬ方向へ向かうときの状況の脆さを的確に表現していると感じます。
どうせクロワッサンを食べるのであれば、もっと優雅に、もっと純粋に楽しく味わいたいと思いますが、掲出歌のクロワッサンはそのような場面とはかけ離れたところにおけるクロワッサンなのでしょう。
特に上句のリズム感と、クロワッサンの脆さのイメージが印象に残る一首です。