長文のメールに「はい。」とだけ返すのがたのしくてひとりぼっちだ
木下龍也『きみを嫌いな奴はクズだよ』
木下龍也の第二歌集『きみを嫌いな奴はクズだよ』(2016年)に収められた一首です。
メールの最適な長さ、平均的な長さとはどのくらいなのでしょうか。
これはなかなか難しい問題ですが、長文を好む人もいれば、短文を好む人もいるでしょう。また場面によって長文が適しているときもあれば、短文が適しているときもあるでしょう。
この歌では、相手からきた長文のメールに対して、句点を入れてたった三文字「はい。」とだけ返しているという場面です。そしてその返信の仕方が楽しいというのです。おそらくこの一回だけではなくて、これまでに何度もこのパターンで返信したことが窺えます。
しかし、ただ楽しいというだけではありません。結句の「ひとりぼっちだ」がそれを表しているでしょう。
このような返信を繰り返していると、相手からもいい目で見られないことはもちろん、自分自身でも本当に楽しいとは思えないのではないでしょうか。
四句の「たのしくて」は寂しいのと同義で使われているように感じます。「はい。」とだけ返している自分、「はい。」とだけしか返信できない自分、そんな自分は楽しいよりもむしろ寂しいものだというのは、自分自身が一番感じているということが表現されているように思います。
メールの返信は自由といえば自由ですが、相手とのキャッチボールである以上、暴投、無返球などはキャッチボールが続かない原因になるということまで考えさせられます。
「メール」と「ひとりぼっち」はあまりに組み合わせのよくないもののようですが、それら両方を一首のなかに取り入れたことで、自他の関係とは何かを浮かび上がらせる歌になっていると思います。