問題 – Question
〈みずうみの岸にボートが置かれあり匙のごとくに雪を掬いて〉という巻頭歌で始まる、吉川宏志の第八歌集は何?
答えを表示する
解答 – Answer
『石蓮花』
解説
『石蓮花』は2019年(平成31年)に出版された、吉川宏志の第一歌集です。2015年(平成27年)から2018年(平成30年)までの作品350首が収録されています。
第一歌集の頃からそうですが、着眼点が鋭く、他の人が気づきにくいところを捉えるのが非常に巧いと感じます。本歌集でも見立てや比喩の巧さが際立つ歌が多く目に留まります。
このような歌に出会うとき、自分がもっている認識というものが少し揺さぶられるように思います。そしてその揺さぶられるということ自体がとても心地よく、それをもたらしてくれる歌に出会えたということが喜ばしいことだと感じるのです。
さて、歌集名の「石蓮花」ですが、次の一首から採られています。
アビカンス、アビカンスと母は呟けり検索すれば石蓮花のこと
母を看取る様を詠った一連「石蓮花」の中の一首です。この一連にも、もちろん著者ならではの巧さのある歌が見られますが、それよりも母への想いがストレートに詠まれた歌に惹かれます。
そのほかにもデモへ参加した様子を詠った歌なども多くあり、著者自身の日常から生まれる歌の力強さを感じさせてくれる一冊です。
本歌集にて、第70回芸術選奨文部科学大臣賞、第31回齋藤茂吉短歌文学賞。
『石蓮花』から五首
自販機のなかに汁粉のむらさきの缶あり僧侶が混じれるごとく
初めのほうは見ていなかった船影が海の奥へと吸いこまれゆく
ゆらめける水とおもいて近づけば激しく塗りし筆跡に遇う
食べなさい うさぎに話している妻の後ろを抜けて出勤したり
窓に付くしずくしずくに灯の入りて山裾の町にバスは下りゆく