問題 – Question
〈殉教者さかしまに息絶えしのちバンジージャンプを人は楽しむ〉という巻頭歌で始まる、松村由利子の第三歌集は何?
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解答 – Answer
『大女伝説』
解説
『大女伝説』は2010年(平成22年)に出版された、松村由利子の第三歌集です。第45回短歌研究賞受賞作「遠き鯨影」も収録されています。
大女死すごと大き物語死して世界は荒涼とせり
「大女伝説」
これは、歌集名にもなった連作「大女伝説」の最後の一首です。大きな物語が存在しない世界をさびしく感じている歌です。
そして、松村由利子はあとがきで次のように述べています。
世界から「大きな物語」が失われたといわれて久しい。人々が共有できる思想や夢が拡散してしまったというのである。短歌は小さな詩型だが、物語を内包する力をもつ。歌によって何か物語を紡ぐことができれば、という思いを強くしている。
あとがき
「物語」に注目した一冊といえますが、短歌がもつ物語は一首一首に対してはもちろん、それが連作となったとき、その歌群にも物語が生まれるのでしょう。
本歌集に登場する歌の題材は多種多様です。食べ物、音楽、動植物、人物、気候、天文、文学、言語、時事的な問題などなど。
このような題材の豊富さに、あらゆる場面で自身が融合していくような歌が見られ、歌の世界が広がっていくところに魅力を感じる一冊です。
2011年、本歌集にて第7回葛原妙子賞受賞。
『大女伝説』から五首
春の耳しずかに空へ向けるとき極地の氷また崩落す
六月の鯨うつくし墨色の大きなる背を雨にけぶらせ
島豆腐にわれはなりたし渾然とチャンプルーになるまでの快
母は所詮さみしき運河ファーブルの息子も昆虫学者なりけり
俘虜死せし幾万人の奪い合う薄きスープに似た海の色