問題 – Question
〈でもそれが始まりだった。檸檬水、コップは水の鱗をまとい〉という巻頭歌で始まる、千種創一の第二歌集は何?
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解答 – Answer
『千夜曳獏』
解説
『千夜曳獏』は2020年(令和2年)に出版された千種創一の第二歌集です。27歳から31歳までに詠まれた362首が収録されています。また二篇の詩も含まれています。
歌集名は次の一首からとられたのでしょう。
千夜も一夜も越えていくから、砂漠から獏を曳き連れあなたの川へ
言葉と言葉、事象と事象とのつなぎ合わせ方に特徴があり、そこから生じるイメージや感情がとても魅力的に感じます。
句読点、一字空けを巧みに取り入れながらも、一首全体としての音数は三十一音前後に収まる歌が多く、定型に対する意識はかなりあるのではないでしょうか。反対にいえば、定型に対する意識が強いからこそ、音数は守りつつも、句読点や一字空けを置く位置を工夫することで、新たなリズムをつくり出そうとしているのかもしれません。
歌集の装幀、手触り、大きさ、重さ、そのいずれもが心地よく、手元に置いておき、あるいは鞄に入れておいて、折に触れて何度も読み返したい歌集です。雨の日にも、晴れの日にも、多彩な感情を閉じ込めたこの歌集は、どちらの日にも合うそんな一冊でおすすめです。
『千夜曳獏』より五首
外は嵐。水族館のくらがりにあなたは雨垂れみたいに喋る
曖昧のなかにひそんだ愛が好き 箸で海苔から海苔をめくった
このアカウントは存在しません 桃は剥くとしばらく手から香るから好き
あなたとの記憶さかのぼりつつ鮭になって浅瀬で命たちたい
筆を折った人たちだけでベランダの季節外れの花火がしたい