問題 – Question
〈山谷に情放てと刻す印琉璃厰に得てわれは旅立つ〉という巻頭歌で始まる、雁部貞夫の第二歌集は何?
答えを表示する
解答 – Answer
『辺境の星』
解説
『辺境の星』は1996年(平成8年)に出版された、雁部貞夫の第二歌集です。359首が収録されています。
歌人であり登山家である雁部貞夫の歌は、やはり山岳詠にスケールの大きさが表れているように思います。
本歌集は、パキスタン北西部の辺境チトラール最北部のシャー・ジナリ河源行の作品群が中心をなしています。日常から遠く離れた凍てつつく山で詠まれた歌は、からだの底から厚みをもって湧き上がる力強さを感じます。
著者はあとがきで次のように述べています。
近ごろ、かなり高名な歌詠み諸氏が歌を作ることを「歌を書く」と表現しているのをしばしば目にすることがあり、違和感を抱くことが多い。私のは「書く」のではなく、「歌う」のである。
あとがき
中央アジアやヒマラヤの大自然の中で詠い続けてきた著者にとって、短歌は「歌う」ものであり、決して「書く」ものではないのでしょう。
『辺境の星』から五首
乳形の葡萄は市にうづたかし耶律楚材の歌に見しごと
凍てし雪にアイゼン利けばこころよし月はあたかも雲を離れぬ
おのが身体ザイルに繫ぎ寝ねむとす薄明までのあと数時間
ピッケルを幾度もはね返す蒼き氷足場を刻む掌のむくみたり
二段に崩れし氷瀑百メートル一段のぼりこの日暮れたり