買い物の袋から飛び出たネギがわたしの生活をよくしそう
郡司和斗『遠い感』
郡司和斗の第一歌集『遠い感』(2023年)に収められた一首です。
難しい言葉は使われておらず、内容は一読してよくわかります。
ネギが一本あるいは数本、買い物袋に刺さっているのでしょう。スーパーの買い物袋は縦横の長さがほぼ同じで、正方形か長方形に近い四角形であるのに対し、ネギは棒状であるため、どうしてもネギの頭の部分が袋から出てしまいます。
買い物袋に入れたけど、そこから飛び出しているネギを見て「わたしの生活をよくしそう」と主体は感じたのです。「よくしそう」の表現からは、悲観的な思いは感じられません。純粋に「よくしそう」と感じたのだと思います。
ネギから、生活がよくなりそうだという思いへの移行には、非常にささやかでありながらも、日常の中に幸せの種を見つける豊かな視点を感じます。しかし、無理に向上へのきっかけを見つけだそうとしているわけではありません。ネギを見て、自然と「わたしの生活をよくしそう」という思いが湧いてきたのだと思います。
それはいってみれば、直感のようなものかもしれません。例えば、金銭的な面で生活をよくするといえば、お金や出世などが想像されますが、ここではネギであり、生活がよくなりそうだといっても、そのような金銭面とは直接的には関係がありません。ですから、買い物袋から飛び出たネギが生活の向上に寄与するかどうかは、目に見えるかたちではっきりとわかるものではないでしょう。あくまで、そんな気がする、予感がするといった印象を受けるのです。
ひょっとすると、このネギを使って友人や恋人、家族など親しい人と一緒に料理をするのかもしれません。そのような人との関係性が濃くなる要因のひとつとして、このネギが象徴的に存在しているようにも思います。今回一回きりのネギというよりも、今後も買い物袋から出るネギとそのネギをきっかけに生活が充実していくという場面が、何度も繰り返されそうだという予感も含まれているのはないでしょうか。
ときにはこのような予感を大切にしてみること。それが日々の生活をわずかでも豊かにしてくれるきっかけになるのかもしれません。日常のとても小さな一場面を切り取った歌であり、肯定的な感じがあふれていて、印象に残る一首です。



