ひかる板割れて地下から生えてきたひとかぎりなく下ろすエレベーター
柳澤美晴『一匙の海』
柳澤美晴の第一歌集『一匙の海』(2011年)に収められた一首です。
エレベーターから人が降りてきたシーンを詠った歌でしょうが、主はエレベーターをなっており、その把握の仕方が独特です。
まず「ひかる板」は、エレベーターのドアのことだと思います。ドアが光って見えるような状況ということでしょうか。
そしてエレベーターの乗客を「地下から生えてきたひと」と表現しています。生えてきたという捉え方が面白く感じます。下から上へ上がってきたエレベーターでしょうが、ドアが開くタイミングでは、乗客はエレベーター内部に停止しているので、実際のところ上から下ってきたのは、下から上がってきたのかは、階数表示の移動状況を見ないとわからないと思います。あるいは、シースルーエレベーターのように外から動きが見える場面かもしれません。
ここで改めて初句二句を振り返ると、「ひかる板」とあることから、夜に光るシースルーエレベーターをイメージした方がしっくりくるように感じます。
「かぎりなく下ろす」では、まるで無数の茸が生えてくるように生えてきた人間を次から次へと吐き出しているようなイメージを浮かべます。量産されたロボットが機械的に送り出されるような状況にも近いでしょうか。
エレベーターは人を降ろして、階を変え、人を乗せて、階を変え、人を降ろして…、を繰り返すのでしょう。それがエレベーターの役割だといってしまえばそれまでなのですが、この歌を読むと無限に繰り返されるであろう、そのような行為を思うと、どこか怖ろしさのような、空しさのようなものを感じざるを得ません。
「かぎりなく」人が降ろされるシーンが強烈に印象に残る一首です。



