日曜のひとりぼっちは思いのほか幸せなんだ 歯磨きはしない
カン・ハンナ『まだまだです』
カン・ハンナの第一歌集『まだまだです』(2019年)に収められた一首です。
「日曜のひとりぼっち」はさびしいのでしょうか、それともうれしいのでしょうか。「思いのほか幸せなんだ」は強がりでしょうか、それとも本心でしょうか。
日曜ということは、おそらく学校も仕事もなく休みの日ということでしょう。
ひとりでいることが好きな人は、日曜のひとりぼっちは全然さびしくもないし、むしろうれしいくらいでしょう。一方、大勢といることが好きな人、誰かと一緒にいないと不安になる人にとって、日曜のひとりぼっちは結構つらいものかもしれません。
この歌では、どちらか一方に寄っているというよりも、もう少し複雑な気持ちなのかもしれません。誰かといたい気持ちはあるけれども、この日は一緒にいる相手もいないし、ひとりで過ごしていると、思っていたよりも楽で落ち着いて、幸せが感じられるという状況なのではないでしょうか。そうはいっても、日曜のひとりぼっちを心の底から全肯定しているわけではなく、思いのほか幸せとは思いつつも、やはり心の片隅では、ひとりぼっちでいることへ全信頼をおけない自分がいることも感じているのだと思います。「思いのほか」という表現が、そのような微妙な感情をうまく表しているように思います。
面白いのは結句で、「歯磨きはしない」といい切っていることでしょう。ひとりだから、誰かと会う必要もないから、歯磨きしないのですが、このようにはっきりといわれることで、主体の人間味のようなものが垣間見える気がします。
それはぐうたらであるとか、だらしないとか、そういうことではなく、歯磨きをしないことが、幸せにつながるひとつの事象として、生々と表れているのだと感じます。
歯磨きをしないことを幸せにつなげようとする強がりであるとも読めなくはないですが、それよりも、歯磨きをしなくていいというひとりぼっちを肯定的に捉えている方向性の方が強いのではないかと思い、素直に受け取りたいと思います。
使われている言葉は難しくありませんし、場面も複雑ではないと思いますが、読めば読むほど、主体はどのように思っているのだろうかと色々なことを考えさせられる一首なのではないでしょうか。
