貧しさがデフォルトであるわたしたち笑えと言われるままに笑うよ
柳澤美晴『一匙の海』
柳澤美晴の第一歌集『一匙の海』(2011年)に収められた一首です。
歌集の略歴に養護教諭と書かれていますが、掲出歌を含む一連の内容から、この歌は養護教諭として勤務している場面を詠んだ歌だと思います。
この「わたしたち」はおそらく生徒そのものを指しているのでしょう。
初句二句の「貧しさがデフォルトである」という認識に驚かされます。そう感じざるを得ない生徒たちは一体どんな思いで日々を過ごしているのでしょうか。「貧しさ」は金銭的な貧しさもありますが、心の貧しさもあるでしょう。人生そのものに対する捉え方の貧しさというのも考えられます。
「デフォルト」という用語が使われているところに、貧しさが当たり前であることを受け入れているような、乾いた印象を受けます。
下句の「笑えと言われるままに笑うよ」にも、どうしようもなさが感じられます。自らの意思を優先するよりも、「貧しさがデフォルトである」という状況を受け入れてしまっているのではないでしょうか。
「笑え」といわれれば「笑う」というところに、自分の軸は影を潜めてしまっているでしょう。
「わたしたち」の今後には、「笑え」といわれても笑わない日々は来るのでしょうか、あるいは笑うなといわれても笑う日が来るのでしょうか、また何もいわれなくても笑う日は来るのでしょうか。
そのとき、主体は「わたしたち」を一体どのような目で見つめているのでしょうか。そんなあれこれを考えさせられる一首ではないでしょうか。