傘の歌 #33

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傘の短歌

バス停もバスもまぶしい 雨払ふごとく日傘を振つてから乗る
石川美南『架空線』

石川美南の第四歌集架空線(2018年)に収められた一首です。

日傘を差してバス停までやってきて、日傘を差しながらバスを待っている場面でしょうか。

日傘を差してきたということは、日差しが強い日なのでしょう。ただ曇りの日でも紫外線が降り注いでいるので、この日が太陽がかんかんに照っていて晴れている日とは限りません。

しかし「まぶしい」という言葉から想像できるのは、やはり光にあふれているイメージなので、曇りの日というよりは晴れの日で、日差しがある状況と捉えたいと思います。

「バス停もバスもまぶしい」は、バス停にバスが停車しているところでしょうが、バス停もバスも光に包まれているような印象を受けます。

そして主体はバスに乗り込むのですが、差していた日傘を閉じてから乗るのでしょう。バスに乗る前の動作がこの歌の一番のポイントで、「雨払ふごとく日傘を振つて」がこの歌を特徴づけているのではないでしょうか。

通常傘を振るのは、傘に雨の滴が残っていてそれを振り払うからでしょう。ですから、雨滴を振り払うという意味においては、雨に濡れていない傘を振ることはまずないでしょう。

この歌で登場するのは日傘であり、「雨払ふごとく」とあるため、実際に雨や水に濡れているというわけでもなさそうです。それなのに「日傘を振つて」いるのです。雨に濡れていない傘を振るという行為が、謎めいています。その謎めいた行動こそが、この歌の面白いところでしょうが、主体はなぜ日傘を振ってからバスに乗ったのでしょうか。

例えば、日傘に降り注ぐ太陽光を、雨滴と同じように感じているのかもしれません。そうであれば、目には見えないけれども、日傘についたものを振り払うという行為もあり得るでしょう。

また、日傘を振るという行為が、主体にとっての儀式のようなものになっている可能性もあります。日傘に、雨滴のような何かがついているわけではないけれど、傘を閉じるときに傘を振るという行為が儀式やルーティンのようになっているため、日傘であっても閉じる際に振っているのかもしれません。

色々と想像はできますが、その理由ははっきりと書かれていませんし、辻褄の合う理由を求める必要もないかもしれません。「雨払ふごとく日傘を振つて」はあまり理由を深く求めずに、感じたままを受け取って読むのがいいように感じます。日傘を振るというのはやや謎めいた行為ですが、その謎めいた感じをそのままに味わうのがいいのではないでしょうか。

「まぶしい」「日傘を振つて」という言葉から、光にあふれた光景が浮かび上がってくる一首で、明るさに満ちた歌だと感じます。

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