今日もまた前回までのあらすじを生きてるみたい 雨が止まない
鈴木美紀子『風のアンダースタディ』
鈴木美紀子の第一歌集『風のアンダースタディ』(2017年)に収められた一首です。
日々を重ねることは、日々経験を積むことであるでしょうし、新しい何かに出会うことでもあるでしょう。
つまり、生きていくことは成長していくこと、と捉えられがちなところがあります。しかし、必ずしもそうとはいえない場合もあるでしょう。
掲出歌では「前回までのあらすじを生きてるみたい」と詠われています。
よく連続ドラマやマンガなどで、前回のあらすじを簡単に振り返るケースがあります。ここで詠われているものもこのようなイメージでしょうか。
ただし、”前回のあらすじ”と「前回までのあらすじ」は微妙に異なります。「前回までのあらすじ」は最初から前回まですべての期間におけるあらすじを指しているでしょう。
「今日」という新しい一日を生きているのではなく、「前回までのあらすじ」を生きているような感覚にとらわれている主体がここにいますが、このように生きていることをあまり肯定的には捉えていないように感じます。
「雨が止まない」は、きっと雨が止んでほしいの裏返しの状況なのでしょう。
そして「今日もまた」ということから、今日だけではなく、昨日も一昨日もその前も、同じような日が続いているのだと推測できます。
繰り返し「前回までのあらすじ」を生きているように感じるのは、思考が過去に向いているということかもしれません。過去の何かが、主体の思いを過去、すなわち前回までのあらすじに縛りつけているように思えます。その過去は、いい何か、ではなく、あまりよくない何かだったのではないでしょうか。あるいは起伏のない何かだったのではないかと思います。
この後いつまでこのような日々が続くのか、それはわかりません。”止まない雨はない”という言葉がありますが、この言葉が、この一首に対して何らかの助けになるのかどうか、それは読み手がこの歌に向き合う中で、自ずと答えが出てくるのかもしれないと思います。