編み物の初めのように先が長い二人静かに前を見ている
竹内亮『タルト・タタンと炭酸水』
竹内亮の第一歌集『タルト・タタンと炭酸水』(2015年)に収められた一首です。
ここでいう「二人」とは主体と、主体にとって大切な人を指すのでしょう。
そして「先が長い」というのは、これからの人生の道のりの長さを表しているように思います。
その長さを「編み物」に喩えています。「編み物の初めのように先が長い」から、編み物はまだ編み始められたばかりであり、その編み物が完成するのは当分先の話なのです。いや完成することはない編み物かもしれません。果てしなく続いていくことを想像させてくれます。
「前を見ている」は、今目の前を見ているという意味とともに、これからの人生を見つめているという意味合いも含まれていると思います。
つまり、二人でこの先を一緒に進んでいこうという一首として捉えてもいいのではないでしょうか。
編み始めたら、そう簡単には途中で止めることはできないでしょう。その果てしなさを制約と受け取るか、楽しさと受け取るかで大分印象が変わってくると思います。
穿った見方をすれば、先の長さは、希望であると同時に、わずかながらの絶望をも含んでいるかもしれません。
何の障害もなくすんなりと編めるものとは限らないでしょうし、途中で解きなおして後戻りする可能性もあります。しかしそれでも「二人」は「前」を向いて進んでいくのだと思います。
縦と横が交差しながら編まれたもの、それ自体が二人にとっての人生そのものの証となるのではないでしょうか。
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