昧爽のSAに星入りのサイダーを売る自販機ありき
鈴木加成太『うすがみの銀河』
鈴木加成太の第一歌集『うすがみの銀河』(2022年)に収められた一首です。
「昧爽」とは夜が明けかかっているとき、あかつきを指す言葉です。
二首前に〈ひぐらしの声に目覚める みづうみを遠く見下ろすSAに〉とルビが振られており、掲出歌の「SA」もサービスエリアを指しているでしょう。
「星入りのサイダー」が夜明けのサービスエリアと呼応し、雰囲気のある情景が浮かんできます。
「星入り」の「星」は現実に売られているサイダーではなく、まるで夢の世界にだけ売られているサイダーのように感じます。その雰囲気を後押ししているのが「昧爽」の語ではないでしょうか。
人や店が売っているのではなく、自動販売機が売っているところもポイントでしょう。夜明けのサービスエリアの人の少ない感じが、「自販機」という無人の販売機とマッチするように思います。
「自販機」の閉じられた空間に「星入りのサイダー」。サービスエリアで見た空にはまだ星が輝いていたのでしょうか。空の星とサイダーの星。スケールの大きさと明度の高さを感じます。
結句「ありき」であり、これは過去を回想しているわけですが、先ほども述べた通り、現実そのままの過去というわけではなく、やはり夢の雰囲気を漂わせた回想のように感じる一首ではないでしょうか。