将棋の歌 #9

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将棋の短歌

主人あるじ死し無沙汰の家や春やよひ将棋の駒も冷えてゆくなり
永井陽子『小さなヴァイオリンが欲しくて』

永井陽子の遺歌集『小さなヴァイオリンが欲しくて』(2000年)に収められた一首です。

現在、将棋盤と将棋の駒がある家は日本中でいったいどれくらいあるのでしょう。

昔と比べると、核家族化が進み、住む家もマンションや決して広いとはいえない賃貸物件も多くなりました。またフローリングの家もすくなくありません。そのような住まいにおいて、よほどの将棋好きの家族である場合を除き、将棋盤を置いている家は少ないのではないでしょうか。

かつては、三世代が住むような家で、畳の部屋があり、縁側があり、あるいは離れもありといった造りであれば、将棋や囲碁のセット一式が置かれているところも多く、家族や親戚が集うときに「一局指しますか?」といったこともごく一般的に行われていました。

掲出歌に登場する家も、田舎にある昔ながらの一軒家のイメージが浮かびます。しかし「主人」はすでに亡くなっており、この家に住みつく人も今はきっといないのでしょう。

「やよひ」は弥生つまり三月ですが、これからあたたかな春を迎えていくような季節においてさえ、「将棋の駒」は冷えていくばかりなのです。それは人のぬくもりのなくなった家であるためであり、将棋の駒に触れる人が誰もいないことを表しています。

しかし、将棋の駒がそこにあるというだけで、どこかこの家自体の格調のようなものがかすかに残っていると感じられます。ここに登場する将棋の駒はまだ朽ちることなく、いつか誰かの手に触れられるそのときが来るのをずっと待ち続けているようです。

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