真剣に遊ぶ楽しさ子に説けり飛車角抜きの盤を挟みて
永田淳『1/125秒』
永田淳の第一歌集『1/125秒』(2008年)に収められた一首です。
状況としては、親と子が将棋盤を挟んで、一局勝負している場面です。しかし親と子の力量に差があるため、親は飛車角の二枚落ちにして勝負しているのです。二枚落ちにすることで、親と子の勝負はちょうどいい力量の対決になるのでしょう。
もし飛車角を落とさない平手勝負であれば、真剣に勝負したとき、親が圧勝してしまいます。それでは一方的な勝負になりますし、場合によっては子は負けたことで泣いてしまうかもしれません。そのようなことを考えると、親の側は手を抜いてしまうかもしれません。
手を抜くことがだめなわけではありませんが、この歌においては「真剣に遊ぶ楽しさ」を子に伝えることが主眼となっています。将棋を単に楽しむということ以上に、「真剣に遊ぶ」とはどういうことか、真剣であるからこそ「楽しさ」が生まれるということを子に説いているのです。
今回、手段はたまたま将棋でしたが、将棋でなくてもよかったのかもしれません。「真剣に遊ぶ楽しさ」を伝えるにはどうすればいいのか、その親の思いに子は応えてくれるのか、まさにそこが焦点でしょう。
盤に向き合う二人の真剣な姿が立ちあがってくる一首です。
ポチップ