『桜前線開架宣言 Born after 1970 現代短歌日本代表』山田航

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桜前線開架宣言
質問者

現代活躍している歌人の歌を知りたいけれど、いろいろなタイプの短歌をたくさん楽しめる本はないかなあ?

短歌と一口にいっても、古典和歌から現代短歌までその範囲はとても幅広いものです。

現代短歌、特に1970年代以降に生まれた歌人の歌を読みたいと思った場合、今回取り上げる山田航さんの『桜前線開架宣言 Born after 1970 現代短歌日本代表』がとてもおすすめです。

当書はタイトルに「Born after 1970」とある通り、1970年代以降に生まれた歌人40人が取り上げられています。しかも一人一人の取り上げられている歌の数がとにかく多いのです。各歌人がどのような歌の世界を展開しているのか、じっくりと向き合うことができるアンソロジーとなっています。

また著者の評やコメント、歌人の経歴や背景等が、歌人ごとに見開きにまとめられており、短歌を読む方向を示してくれています。ここに取り上げられた40人は当書が発売された時点における「現代短歌日本代表」ですので、ぜひ多くの人に読んでもらいたい現代短歌アンソロジーです。

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目次

当書のもくじ

まずは『桜前線開架宣言 Born after 1970 現代短歌日本代表』のもくじを見てみましょう。

まえがき

一九七〇年代生まれの歌人たち

  • 大松達知
  • 中澤系
  • 松村正直
  • 高木佳子
  • 松木秀
  • 横山未来子
  • しんくわ
  • 松野志保
  • 雪舟えま
  • 笹公人
  • 今橋愛
  • 岡崎裕美子
  • 兵庫ユカ
  • 内山晶太
  • 黒瀬珂瀾
  • 齋藤芳生
  • 田村元
  • 澤村斉美
  • 光森裕樹

一九八〇年代生まれの歌人たち

  • 石川美南
  • 岡野大嗣
  • 花山周子
  • 永井祐
  • 笹井宏之
  • 山崎聡子
  • 加藤千恵
  • 堂園昌彦
  • 平岡直子
  • 瀬戸夏子
  • 小島なお
  • 望月裕二郎
  • 吉岡太朗
  • 野口あや子
  • 服部真里子
  • 木下龍也
  • 大森静佳
  • 藪内亮輔
  • 吉田隼人

一九九〇年代生まれの歌人たち

  • 井上法子
  • 小原奈実

コラム

  • 歌集が欲しいんだけどどうすれば手に入るかな?
  • 現代の歌人はどんな短歌に影響を受けてきたの?
  • 歌集ってどういう出版社から出ているの?
  • 学生短歌会ってなに?
  • 口語と文語はどうちがう?

ブックガイド

あとがき

1970年以降に生まれた歌人を取り上げています。大きく1970年代、1980年代、そして1990年代の3章で区切られています。コラムは見開きにコンパクトにまとめられており、特にこれから短歌を始めようとする人にとって知っておきたい内容となっています。

おすすめのポイント

それでは、当書の特長やおすすめのポイントを順番に見ていきます。

現代短歌代表歌人が40人

まずはどれだけの歌人が取り上げられているのかということですが、1970年代以降に生まれた歌人が40人も取り上げられています。1970年代生まれが19人、1980年代生まれが19人、そして1990年代生まれが2人紹介されています。

もちろん現代短歌の代表的な歌人は40人では収まらないでしょう。著者はあとがきで次のように述べています。

歌人のセレクトは苦しみました。良い歌人は四十人なんかじゃとても収まらなくて泣く泣く入れられなかった人は数知れず。ぜひとも取り上げたかったけれど、収録を固辞された方もいました。

あとがき

著者はこれまで自身のブログ(トナカイ語研究日誌)で、一記事一歌人を取り上げて紹介する「現代歌人ファイル」という記事を多く投稿してきました。ですから、現代短歌で取り上げたい代表的歌人がたくさんいたことは間違いなく、40人では収まらなかった様があとがきから滲み出ています。

その中から選りすぐりの40人ですから、この一冊は本当に中身の濃い歌人が集まったアンソロジーといえます。

選ばれている歌人の短歌の傾向もさまざまで、この多様性こそが現代短歌を面白くしていると感じることができます。

これから短歌を始めようとする人にとって、現代短歌を知っていくために誰から読んでいけばいいのか、その指南書としての一冊となるでしょう。お気に入りの歌人が見つかったらその歌人の歌集を買って読んでみる、その前段階の一冊としてとらえてもいいのかもしれません。

もちろん、すでに短歌に詳しい人もどんな歌人がセレクトされているかは非常に興味深いと思います。仮に自分が40人選ぶとしたら誰を選ぶだろうかと考えながら、著者が選んだ40人と比較してみるのも面白いでしょう。

各歌人56首も楽しめる

一般的にアンソロジーといえば、多くの歌人の歌を収録したものを想像しますが、その場合ページ数の関係からどうしても一人当たり取り上げられる歌の数は少なくなってしまいます。しかし、当書はなんと各歌人56首もの歌が収録されているのです。この一人当たりの歌数の多さが当書の最大の魅力といってもいいかもしれません。

※ただし岡野大嗣は55首、多行書きの今橋愛は32首の収録となっています。

つまりこの一冊で選び抜かれた2,215首もの現代短歌を楽しむことができるのです。

1970年代、1980年代、1990年代から2人ずつ短歌を引いてみましょう。

1970年代

かへりみちひとりラーメン食ふことをたのしみとして君とわかれき (大松達知『フリカティブ』)

抜かれても雲は車を追いかけない雲には雲のやり方がある (松村正直『駅へ』)

1980年代

半分は砂に埋もれてゐる部屋よ教授の指の化石を拾ふ (石川美南『砂の降る教室』)

弟を如何に殺すか思案せし日々を思いぬ栗をむきむき (花山周子『屋上の人屋上の鳥』)

1990年代

よくねむるわたしの花野、花野には罌粟の花びらほどけ散らして (井上法子)

カーテンに鳥の影はやし速かりしのちつくづくと白きカーテン (小原奈実)

この一冊を手元に置いておいたり、いつも持ち歩いておけば、いつでも多くの現代短歌に触れることができます。そして一人の歌人の歌世界をじっくり堪能できる、そこが当書の魅力的なところとなっているのです。

作品世界のわかりやすい紹介

当書は短歌のアンソロジーではありますが、同時に優秀なブックガイドでもあります。

それは著者による、歌人および作品世界のコンパクトな紹介が、取り上げられたすべての歌人に対してなされているからです。見開きにわかりやすくまとめられた歌人の紹介、歌の紹介、そして作品の背景などが読んでいてとても楽しいのです。

当書には40人もの歌人が取り上げられていますが、なかには今回初めて知る歌人も含まれていることでしょう。そのときにこの紹介がとても役立つのです。

歌人の歌だけが羅列されている本と、歌とともにわかりやすい紹介が載っている本であれば、間違いなく後者の方がより短歌作品に親しめるはずです。予備知識や補助線があって短歌を読んでいけば、理解も進み、より深くその世界に入り込むことが出来ると思います。

紹介文章をいくつか、引用してみましょう。

いろんな種類の美学を許容するのが現代短歌のいいところであるが、この松野志保はとりわけ異色の美学を追求する歌人だ。凛としたアルトの響きでの詠唱が聞こえてくるような中性的な文体。本人は女性であるが、「ぼく」という一人称を好んで歌の中に用いており、少年同士の愛の世界を表現しようとする。

「松野志保」

誰かに優しくなりたいときのために読む歌人として、雪舟えまはうってつけだ。穂村弘の第三歌集『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』の「まみ」(雪舟えまの本名に由来する)のモデルであることでも知られている。跳ねまわるようにぶっ飛んだ文体のファンレターを穂村のもとに送り続けていたことがインスピレーションを与え、この文学史に残るガーリーなセンスに満ちた歌集が誕生したわけである。

「雪舟えま」

出向のようなかたちで霞ヶ関の省庁で働いたこともある田村は、バリバリのビジネスマンとして「中央」に立つこともありながら、決してそこにどっぷりと馴染むことはできず、「周縁」への愛着を表明する。ユニコーンはかっこいいロック・サウンドにずっこけたサラリーマン哀歌を乗せてしまうギャップが個性になったのだけど、田村元はずっこけたサラリーマン哀歌というブルースに都市論という思想を乗せようともくろんでいる。

「田村元」

このように著者は、歌人の特徴を捉えるのがとてもうまく、読み手としては歌人や歌の世界がイメージしやすく、たちまち歌人が身近に思えてくるから不思議です。それは見開きに書かれた著者の紹介文章の的確さであり、この文章があるからこそ、より深くそれぞれの歌人の作品に寄り添うことができるのではないでしょうか。

まとめ

『桜前線開架宣言 Born after 1970 現代短歌日本代表』を読むと得られること・ポイントまとめ

  • 1970年代以降に生まれた40人もの歌人の短歌を知ることができる
  • 取り上げられた一人一人の歌数が多く、それぞれの歌人と短歌に深く触れることができる
  • 作品世界や歌人の背景がわかりやすく、歌人に対して理解が深まる

当書は、折に触れて何度も繰り返し読むための一冊といえるでしょう。

歌集を何十冊とそろえることはすぐには難しいでしょうが、当書を一冊手に入れることはさほど難しくありません。そして当書を一冊手元に置けば、その何十冊に相当する現代短歌の世界に触れることができるといっても過言ではないでしょう

タイトルに「現代短歌日本代表」とありますが、まさに代表選手ばかりがそろった一冊となっています。特にこれから短歌をより深く知っていきたいという人にとって、本当におすすめの一冊です。読んで得することはあっても、読んで損することのないアンソロジーです。

内容とは直接関係ありませんが、鮮やかなピンク一色のカバーも書棚に映えること間違いなしです。この一冊で書棚がおしゃれで華やぎますね。デザインも手元に置いておきたいと思わせてくれる、そんな一冊に仕上がっています。

書籍・著者情報

書籍情報

著者山田 航
発行左右社
発売日2015年12月25日

著者プロフィール

歌人。1983年生まれ。札幌に育ち、札幌に住む。歌集に『さよならバグ・チルドレン』、第二歌集『水に沈む羊』がある。
(当書著者略歴より)

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