怒鳴られたあとも天一の日はラーメン食べて笑顔でいる人
上坂あゆ美『老人ホームで死ぬほどモテたい』
上坂あゆ美の第一歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』(2022年)に収められた一首です。
「天一」とは、京都市を発祥とするラーメン屋「天下一品」のことです。天下一品は全国展開しており、北は秋田から南は沖縄まで店舗を構えています。
天下一品といえばドロッとしたスープの「こってり」ラーメンを思い浮かべますが、現在では「あっさり」スープのメニューや、また中間の「こっさり」のメニューもあります。こってりが苦手な人も食べられるようになっているので、幅広い層が訪れるラーメン店となっています。
さて「天一の日」はその語呂から10月1日で、ラーメン一杯無料券やクーポンが配られるキャンペーンの日です。その日にラーメンを食べている人を詠った歌です。
この歌は、素直に受け取れば、とても明るく心温まる一首だと思います。
怒鳴られた後は誰しも気分がいいものではありませんが、この歌に登場する人は怒鳴られた後でも天一のラーメンを食べて笑顔でいるのです。よほどラーメンが好きなのか、天一が好きなのか、とにかくラーメンを食べて幸せそうにしている姿が浮かんできます。
人生において嫌なことがあっても、こういう些細なことで幸せになれたり笑顔になれたりすることは素晴らしいことだと感じさせてくれるのではないでしょうか。
負の側面を引きずるのではなく、いい面を常に見つめる目をこの人はもっているのでしょう。
一方、読み方によっては冷めた目線で見つめている歌とも読めるでしょう。
怒鳴られたのに反省もしないでへらへらして、ラーメン食べて笑っているこの人は、怒鳴られた理由もわかっていないのではないか、これでは成長しないな、といったふうに捉えることも可能です。
このように逆方向の読み方ができるわけですが、これはこの歌に登場する「人」が作者にとってどういう関係の人であるかによって変わってくるのかもしれません。
好意的な関係性の人なのか、あるいは敵対的な、また好意的ではない関係性なのか、それによって変わってくるでしょう。
ただ、歌集においては「グッドなピープル」という題に収められた一首ですから、先に述べた方の素直にいい意味での読み方としてこの歌を捉えたいと思います。
怒鳴られた人を笑顔にさせるだけの力が、おいしいラーメンにはあるのではないかと感じます。