つけ麺と油そばとの違い図に記すあなたの頰を張りたい
小坂井大輔『平和園に帰ろうよ』
小坂井大輔の第一歌集『平和園に帰ろうよ』（2019年）に収められた一首です。
一般的にラーメンは、スープの中に麺が入っています。しかし、ラーメンの分類ではあるのですが、少し異なる食べ方をする食べ物がでてきました。
掲出歌には「つけ麺」と「油そば」が登場します。
「つけ麺」は、麺とスープが別々の器に盛られていて、麺をスープにつけながら食べるものです。ざる蕎麦をイメージするとわかりやすいでしょう。近年、つけ麺専門店もありますし、つけ担々麺といった店も見られます。
「油そば」は、スープのないラーメンです。スープの代わりに特製タレが入っていて、まぜて食べるものです。広い意味ではラーメンの部類に入るかもしれませんが、別の食べ物と思った方がいいでしょう。
したがって「つけ麺」と「油そば」の違いは結構大きいように思います。
さて、この歌はどこで切れると判断するかによって、読みが変わってきます。
「記す」と「あなた」の間で切れるとすれば、つけ麺と油そばの違いを図に記したのは主体となりますが、「記す」が連体形で「あなた」にかかると考えれば、図を記したのは「あなた」になります。
前者の場合、違いを図に記していて、唐突に「あなたの頰を張りたい」と出てくる脈絡のなさが何ともいえません。一方後者の場合は、頬を張りたい理由が若干生まれ、それはつけ麺と油そばの違いを図に記したこと、あるいはその図そのものの出来が、主体に納得いかない感情を起こし、「頰を張りたい」につながったというふうに読めるかもしれません。
「頰を張りたい」のは怒りからではなく、あるいは愛情からの表現からとも捉えることができます。
いずれにしても、違いの図と、頬を張る動作がつながる決定的な関連性が見られないのですが、その関連性のなさが歌に落差を生み出しているといっていいでしょう。
また三句の「違い図に」の助詞が省かれてつづまった云い方も、この歌の雰囲気を表すのに大きな役割を果たしているように感じます。
つけ麺と油そばの違いのイメージが妙に記憶に残る一首です。
