問題 – Question
次の歌の【 ① 】に入る言葉は何?
〈生活の足しにせよとぞ賜いたる銭のうちより【 ① 】少し買う〉 (石田比呂志)
A. 米
B. 塩
C. 薬
D. 酒
答えを表示する
解答 – Answer
D. 酒
解説
生活の足しにせよとぞ賜いたる銭のうちより酒少し買う
掲出歌は、石田比呂志の第一歌集『無用の歌』の連作「三十年」に収められた一首です。
ひとつ前の歌に〈「窮乏をいかにせむかと思うにも妻言えり「ああお金が欲しい」〉とある通り、石田比呂志の生活は困窮していました。
そのような生活の中で、誰かからお金をもらう機会があったのでしょう。その人は生活の足しにするようにといってくれたのですが、もらったお金でお酒を少し買ったというのです。
お酒はどちらかといえば嗜好品の部類に属し、生活窮乏の状態においては優先度が下がる品物でしょう。しかし主体は酒を買ったのです。それも「少し」買ったのです。決してお金のすべてを酒に使うというやけっぱちな行動でも、お酒をまったく買わないという行動でもなかったところに、この歌がもつ味わいが表れているように感じます。
酒を飲みたいけれど酒を買うお金がない、そんなときにお金を賜った、その状況が酒を少しだけ買う行為へと導いたといえるでしょう。生活の足しにするようにくれたお金で酒を買うということに対して、あるいは後ろめたい気持ちがあったかもしれません。けれども、同時に酒を買うことができたということに対する満足感もあるでしょう。生活窮乏の中でも酒を買うことができたこの一首は主体の人間性が垣間見え、ささやかながらも幸福感を感じさせてくれます。