次の歌の【 ① 】に入る言葉は何?
〈こんなにも俺は【 ① 】だといふ事を防犯カメラに見下ろされをり〉 (矢部雅之)
A. 独り
B. 自由
C. 無価値
D. 静か
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A. 独り
こんなにも俺は独りだといふ事を防犯カメラに見下ろされをり
掲出歌は、矢部雅之の第一歌集『友達ニ出会フノハ良イ事』の一連「夢」に収められた一首です。
防犯カメラは建物内はもとより、街中の道路沿いなどでも多く設置されており、人々はあらゆる場面で防犯カメラに映されているといえるでしょう。
掲出歌は「見下ろされをり」とあるので、防犯カメラの下に位置するところにいるのだと思います。
そして「俺は独りだ」ということを主体自身が感じている場面でしょう。主体が防犯カメラによって映されることで、主体が「独り」と感じていることが補強されているように感じる点が、この歌の面白さではないでしょうか。防犯カメラの存在によって、独りであることが改めて認識させられるというか、よりくっきりするというか、そういった印象をこの歌から抱きます。つまり内部的な「独りだ」という思いが、外部の防犯カメラによって浮き上がるところが見どころなのではないかと思います。
この歌はどの視点から詠まれているのでしょうか。この歌の視点は読み進めるほどに少しずつスライドしていくように感じます。最初の「こんなにも俺は独りだ」のあたりは主体の一人称的視点から詠われているように思いますが、下句へいくと「俺」と「防犯カメラ」の両方を眺められる位置、つまり第三者的視点へ推移して詠われているように思います。
この推移によって「独り」は自分中心的な「独り」から、客観的に定められた「独り」へと変化しているように感じます。
「防犯カメラ」がとてもよく効いた歌で、「独り」であることの「独り」感が充分に伝わってくる一首ではないでしょうか。