次の歌の【 ① 】に入る言葉は何?
〈週末はトロンボーンのびよびよで【 ① 】を間延びさせてよ〉 (大前粟生)
A. 老若男女
B. 諸行無常
C. 赤道直下
D. 三寒四温
答えを表示する
B. 諸行無常
週末はトロンボーンのびよびよで諸行無常を間延びさせてよ
掲出歌は、大前粟生の第一歌集『柴犬二匹でサイクロン』の一連「鴨川」に収められた一首です。
この歌は正直、意味をとること、そして説明することが非常に難しい歌だと思います。しかしどこか魅力的に感じる歌です。
使われているのは「トロンボーン」「諸行無常」「間延び」と、あまり関連なさそうな言葉が並んでいます。これらの言葉が一首の中で用いられているという点で、いわゆるよく見る歌とは異なる歌のように感じます。
「トロンボーンのびよびよ」とは、トロンボーンを演奏するときにスライドさせる動きを指しているのだと思います。ここまではトロンボーンの動きなので理解できますが、その後に「諸行無常」が登場し、そのあまりの飛躍に、ここで一旦思考が混乱します。さらに「諸行無常」から「間延び」が導かれ、またも理解が追いつきません。
わかりにくくさせているのは、唐突に登場する「諸行無常」でしょう。「トロンボーン」と「間延び」は、スライドの動きをイメージすると何となくつながるようにも感じます。しかしその間に「諸行無常」が挟まれることで、この歌は一気に独特の世界へ接続する力をもちますが、同時にわかりにくさも兼ね備えてしまうのです。
ただ歌の意味を何とかくみ取ろうとするならば、次のように捉えることもできるでしょう。
諸行無常とは変化の絶え間ないことを意味しますが、「間延びさせてよ」というのは、その絶え間ない変化の勢いを緩めてほしいということではないでしょうか。
そうであれば、初句の「週末は」というところもポイントであり、週末の休みは緩やかに過ごしたいという思いがこの歌の底にあるのかもしれません。
「諸行無常」という大仰な言葉をもってきたところが手柄であり、日常生活の些細な思いを表現するにしても、この歌においては成功しているように思います。
「させてよ」とある通り、呼びかけのかたちをとっていますが、特定の誰かに呼びかけているというよりは、間延びした状況になってほしいという願望の表れを感じる歌ではないでしょうか。
このような読みが正解かどうかはわかりませんが、言葉の選択や組み合わせの妙、いい方などが絡みあって、謎が残りながらもとても気になる一首です。