問題 – Question
〈一つ残しボタンをはづすポロシャツは夏の領域増やしゐるなり〉という巻頭歌で始まる、佐藤モニカの第一歌集は何?
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解答 – Answer
『夏の領域』
解説
『夏の領域』は2017年(平成29年)に出版された、佐藤モニカの第一歌集です。2008年(平成20年)から2016年(平成28年)につくられた310首が収められています。第21回歌壇賞次席作品「サマータイム」、そして第22回歌壇賞受賞作品「マジックアワー」も収録されています。
大きな区分としては、東京に住んでいた頃の歌、沖縄へ移住後の歌、出産から育児に至る歌が章に分かれて詠まれています。テーマがしっかりとしていて、繊細でありながらも骨太な歌だと感じます。特に比喩が巧みな歌が多いのが印象的でした。
中でも、子どもを詠った歌に注目しました。妊娠、出産、子育てと時間の経過に沿って詠われており、子どもを見つめる眼差しのやさしさを感じます。
子という存在を一人の人間として丁寧に見つめるところから、独特の感性が表現されています。また子を見つめることを通して、同時に自分自身の存在も確かめているさまがよく表れているように思います。
一首一首の表現が新鮮で、次の一首はどんなふうに詠われているのだろうと読み進めるのが楽しみになる一冊です。
2018年(平成30年)、本歌集にて第24回日本歌人クラブ新人賞、第62回現代歌人協会賞受賞。
『夏の領域』から五首
スナップが大切と思ふオムレツを作るとき君に反論するとき
膨らんだピザ生地のばし数年をのばし続けた返事を思ふ
さやさやと風通しよき身体なり産みたるのちのわれうすみどり
みどりごの足跡未だあらぬ部屋蜜のやうなる光を招く
アメンボの描く水の輪少しづつ吾子の味覚の広がりてゆく