次の歌の【 ① 】に入る言葉は何?
〈【 ① 】 って言ってから勝ってほしくなった夏のこと冬に思い出してる〉 (平出奔)
A. 無理すんな
B. がんばれ
C. ドンマイ
D. 行けるぞ
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B. がんばれ
がんばれ って言ってから勝ってほしくなった夏のこと冬に思い出してる
掲出歌は、平出奔の第一歌集『了解』の連作「「ひととおり、聞いた感じぃ」に収められた一首です。
何かの試合でしょうか。それについては書かれていませんが、「勝ってほしくなった」から勝負ごとであることは間違いなさそうです。
これは応援する側の視点から読まれた歌だと思います。
仮に野球の試合があり、自分に関わりの深いチームを応援していたと想像しましょう。
季節は夏。グラウンドで野球の真剣勝負を見ている場面で、始めはそれほど勝ち負けにこだわっていなかったのですが、「がんばれ」といってから急に勝ってほしいという感情が沸き上がってきたということでしょう。
勝ってほしいという思いが芽生える瞬間が、いわれてみると確かにそういうことあるなあと感じ、とてもよく伝わってきます。
「がんばれ」という前といった後で何かが変わったということです。それは「がんばれ」という言葉のもつ力かもしれませんが、それ以上に自分が「がんばれ」という言葉を発するという行為によって、この変化はもたらされたのではないでしょうか。
この場面での「がんばれ」は、応援するチームに向けての応援の言葉でしょう。しかし、勝ってほしいという思いを芽生えさせたという点において、この「がんばれ」は自分自身に向けて発せられた一言だと思います。元々、自分に向けて発しようとして発したわけではないけれど、結果として「がんばれ」は自分に向かっての言葉ともなり、勝ってほしいという思いが生まれたのでしょう。
そんな夏のことを冬に思い出しているのですが、このあたり時間が経過したときにふと気づくというところを的確に表しています。感情の微妙な移り変わりというのは、渦中にいるときにはなかなか気づかないものですが、後で過去を思い出したときに、ふとそういう何気ない瞬間が鮮やかに記憶の底から浮かび上がって現れてくるのだと思います。
感情の移り変わりと時間の関わりが平易な言葉で巧みに詠われた、印象深い一首です。