〈夢のすべてが南へかえりおえたころまばたきをする冬の翼よ〉という巻頭歌で始まる、正岡豊の第一歌集は何?
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『四月の魚』
『四月の魚』は1990年(平成2年)に出版された、正岡豊の第一歌集です。1979年(昭和54年)から1989年(平成元年)までの作品208首が収録されています。
本歌集を読んでいて、身体や天文に関する言葉が多く詠まれていることに気づきます。そしてそれは、そのもの実体を詠んでいるというよりも、喩として提示するために、これら身体や天文に関する用語が選ばれているように思います。
ですから本歌集の歌を理で解釈しようとすると、歌がもつ魅力を捕まえづらい状況となってしまうのですが、理屈をつけて理解しようとするのではなく、歌を読んで感じたものを素直にそのまま受け取って歌を味わうという行為が、これらの歌には必要なのではないでしょうか。
どういう歌ですかと問われ、うまく説明することができないけれども、何かいい、ということは感じる、それでいいのではないかと思います。
それは歌自体がもつ情報が読み手に通じるように完全に提示されているわけではありませんし、そもそもなぜそのような状況が提示されているのだろうという部分においても、すんなりと理解できないところもあります。でもそれでいいのです。短歌は歌を説明できるよりも、歌そのものをいいと感じるかどうかがより重要だと思います。
本歌集は入手が困難でしたが、再版に再版を重ね、2020年(令和2年)に書肆侃侃房の「現代短歌クラシックス」シリーズから再版されました。
『四月の魚』から五首
へたなピアノがきこえてきたらもうぼくが夕焼けをあきらめたとおもえ
さかなへんの字にしたしんだ休日の次の日街できみをみかけた
きみがこの世でなしとげられぬことのためやさしくもえさかる舟がある
きっときみがぼくのまぶたであったのだ 海岸線に降りだす小雨
無限遠点交わる線と線そこにひっそりときみのまばたきがある