問題 – Question
〈「秒針の音が気にならない夜は初めて」つぶやくきみも海鳴り〉という巻頭歌で始まる、櫻井朋子の第一歌集は何?
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解答 – Answer
『ねむりたりない』
解説
『ねむりたりない』は2021年(令和3年)に出版された、櫻井朋子の第一歌集です。
著者はあとがきで次のように述べています。
何かを選び取るたび、選ばなかったほうの道に進んだわたしも存在している気がして、歳を重ねるごとにその「残像」を強く意識するようになりました。
あとがき
本歌集は「ミナモ」「ツツジ」「コハク」「ルリ」という題の四つの章から成っています。それぞれは、選んだ道かもしれませんし、選ばなかった道かもしれません。しかしそのいずれもが「わたし」として提示されているのです。
ですから選ばれなかった道であったとしても、本歌集に登場する世界は、生と死を背景に抱えながら、肉体的手触りを帯びて読み手に伝わってくるように思います。
そこには他者との関わりを通しての「わたし」の世界が展開されていくのです。
『ねむりたりない』から五首
お茶筒がふすりと閉まる瞬間もいつか死ぬって信じきれない
くるぶしは小さな果実 夕闇に熟れゆくきみを起こせずにいる
あの女も使ったかなぁ出汁巻のうずに差し込む基礎体温計
種明かしするような風 どの汗も鎖骨でわずかに進路を変えて
枯れるのも咲くのも花の意志ならばわたしの体はだれの福音