短歌クイズ Q.344

元素記号を唱えるように結婚を告げたる友この明るさは何

掲出歌は、染野太朗の第一歌集『あの日の海』の連作「風待ち」に収められた一首です。

結婚の報告というものは、大抵明るいものではないでしょうか。暗く報告するくらいであれば、そもそもその結婚は望まないものであったということでしょうが、多くの場合はうれしい報告となるものでしょう。

この歌では、結婚の報告をしてきた友が想定以上の明るさであったことが詠われています。

しかもその報告はまるで「元素記号を唱えるよう」だったというのです。結婚報告の喩えとして、この喩えは独特で特に印象に残ります。

元素記号は語呂合わせで「スイヘーリーベボクノフネ…」などと覚えましたが、そのようにすらすらと結婚を報告してきたのではないでしょうか。

結句の「この明るさは何」からは、友の明るさと主体の平常な状態とのギャップが感じられ、結婚報告をしている友の異様さを際立たせています。

明るければ明るいほど、主体と友との距離が遠く離れていくような一首だと思います。