問題 – Question
〈まばたきの音はわたしの始まりの音であり終わりの音でもある〉という巻頭歌で始まる、島楓果の第一歌集は何?
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解答 – Answer
『すべてのものは優しさをもつ』
解説
『すべてのものは優しさをもつ』は2022年(令和4年)に出版された、島楓果の第一歌集です。ナナロク社主催の「第1回 あたらしい歌集選考会」で、木下龍也選として刊行が決まった一冊です。
歌集名は掉尾の歌〈優しさをもってすべてに接すればすべてのものは優しさをもつ〉から採られていますが、この歌は著者のまなざしそのものを表している一首でしょう。
優しさをもって対象を見つめることから生まれた歌の数々は、読み手に新たな気づきを与えてくれます。対象を見つめる目は、著者から対象に対する一方向ではなく、対象からの逆方向の視線を常に含んでいます。一首の中で同じ言葉が繰り返される頻度が多いのは、このような双方向の視線の行き来があるからなのだと思います。
そのように見つめる著者だからこそ、われわれが普段見過ごしてしまっている現象や状況を上手に掬い上げて歌として手渡してくれるのです。
日常への観察眼の鋭さが光る本歌集ですが、一冊を通して読むと、鋭さというよりもそれはむしろ優しさであったことが感じられる一冊です。
『すべてのものは優しさをもつ』から五首
見えるけど聞こえはしない距離にいる人がやってるラジオ体操
切られてる最中も木は刃を向ける人に日陰を与え続ける
親切で端に寄ってくれた人の後ろに欲しい干し芋がある
空っぽのコップが倒れたテーブルにコップの中の空気は満ちる
春のパンまつりのシールがキッチンの片隅で二度目の春を知る