〈かわせみよ 波は夜明けを照らすからほんとうのことだけを言おうか〉という巻頭歌で始まる、井上法子の第一歌集は何?
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『永遠でないほうの火』
『永遠でないほうの火』は2016年(平成28年)に出版された、井上法子の第一歌集です。
2013年に第56回短歌研究新人賞次席となった連作「永遠でないほうの火」を収録しており、同連作のタイトルは本歌集の歌集名ともなりました。
本歌集の解説で東直子が歌集の特徴を「青い水と光」のイメージと指摘していますが、まさにその通りで「青」「水」「光」のイメージで展開されていく一冊だと感じます。そして、そこに「火」のイメージが加わってきます。ときには「白」のイメージも出現しているように思います。
これらの歌々を理屈で説明しようとするのは難しいのですが、説明しきれないのだけれど惹かれる歌が多いと感じる一冊です。
それは言葉のもつイメージを、より濃度を増して読み手に与えてくれるというのでしょうか、くっきりとした輪郭は見えないのだけれど確かにそこに存在するという存在感自体を手渡してくれるような印象があります。それは「暗」ではなく「明」の方向へ歌が向かっているのかもしれないと思います。
そしてその濃度の濃さにこそ、惹きつけられている一因があるのではないかと感じます。
一読ではなかなかつかめないところもあり、言葉で説明することは難しい部分はありますが、だからこそ何度も読み返したくなる一冊なのだと思います。
『永遠でないほうの火』から五首
もうずっとあかるいままのにんげんのとおくて淡い無二のふるさと
どんなにか疲れただろうたましいを支えつづけてその観覧車
雲のない空に吐息の寄付ひとつ 近づけば逃げてゆくお前たち
煮えたぎる鍋を見すえて だいじょうぶ これは永遠でないほうの火
雪の舟とけてこれから花の模写 始まらないから終われなかった