〈食べてから帰れと置き手紙 横に、炒飯、黄金色の炒飯〉という巻頭歌で始まる、小坂井大輔の第一歌集は何?
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『平和園に帰ろうよ』
『平和園に帰ろうよ』は2019年(平成31年)に出版された、小坂井大輔の第一歌集です。
「平和園」とは名古屋駅西口の商店街にある中華料理店です。著者の実家であり、職場であり、現在は歌人が多く訪れることから「短歌の聖地」として知られています。
本歌集を読んでいると、自分の人生を見つめる目を随所に感じます。
何ひとつ成し遂げられず生きてきたランキングがあるならば一位だ
「ベイビー」
この一首に代表されるように、自己肯定感の低さのようなものが表れています。将来に対する不安といったものはあまり見られませんが、自分に対する不甲斐なさや悔しさが滲んでいて、人生を考えさせられる歌にあふれています。
しかし、歌は決して暗くはありません。自己肯定感の低さはあっても、ジメジメとした歌ではなく、カラッと晴れた歌のように感じます。それは自分を客観視できる目を、著者がもっているからでしょう。
ですから、詠われている内容はかなしいことであったとしても、一首として提示されるときは、うまく料理され、味わい深い歌として読み手に届けられるのです。
素材とスタイルの組み合わせに惹きつけられる一冊です。繰り返し読むことで、さらにその奥深さに近づくことができるのではないでしょうか。
これまで「平和園」を訪れたことはありませんが、本歌集の歌を思いつつ平和園を訪ねてみたいと思います。
『平和園に帰ろうよ』から五首
閉まらない雨戸とフォークダンスする母に合わせて鳴らす口笛
柔道の受け身練習目を閉じて音だけ聞いていたら海です
第三のコースの人のクロールが道を外れて何処か行きそう
注文と違う料理が運ばれてきたことそれを食べてきたこと
嘘をつきすぎると神から警告の意味でこけしが代引きで来る