問題 – Question
〈すれ違う手首の白い春の果て犬が傷つく映画は観ない〉という巻頭歌で始まる、榊原紘の第一歌集は何?
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解答 – Answer
『悪友』
解説
『悪友』は2020年(令和2年)に出版された、榊原紘の第一歌集です。2019年に第2回笹井宏之賞大賞を受賞した連作「悪友」を始めとした330首を収録しています。
本歌集を読むと、著者はどのような思いで世界を捉えているのだろうか、と考えてしまいます。著者があとがきで述べる通り、憎しみや苦しみの目で世界を見つめている部分はあるでしょうが、決してそれだけではないと思うのです。
時には世界に対するやさしさを含んだ視線を感じます。どちらかといえば、そのような眼差しのやさしさを感じる歌に惹かれます。
いってみれば、本歌集には様々な角度から捉えられた歌が混じっている、そんな印象を受けます。制作時期の違いや歌の並び順によって感情の幅はある程度表れるのでしょうが、それ以上に感情の揺れのようなものを感じます。
一首一首における、世界への視線は確固たるものがあるように思いますが、歌集全体としてみた場合、世界に対する感情は実に様々であるように思うのです。同時にそれが本歌集を読む楽しみともなるでしょう。
また『血界戦線』『ハイキュー!!』『おおきく振りかぶって』などの漫画やアニメを題材とした作品が収められているのも特徴のひとつです。
『悪友』から五首
嘘泣きを老いゆく日々に挟みたい書庫の埃がひかりを伸ばす
立ちながら靴を履くときやや泳ぐその手のいっときの岸になる
祝福を 花野にいるということは去るときすらも花を踏むこと
搭乗口までの短いモノレール 思い出したら思い出になる
スノードームに雪を降らせてその奥のあなたが話すあなたの故郷