問題 – Question
〈時に応じて断ち落とされるパンの耳沖縄という耳の焦げ色〉という巻頭歌で始まる、松村由利子の第四歌集は何?
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解答 – Answer
『耳ふたひら』
解説
『耳ふたひら』は2015年(平成27年)に出版された、松村由利子の第四歌集です。2010年の春に沖縄の石垣島に移り住んでからの歌が収められています。
島暮らしの日々を通して、沖縄の自然と、痛みを負った歴史とが繰り返し詠われています。
沖縄に住むことなく沖縄を詠うことと、沖縄に住み沖縄を詠うことはまったく異なることであり、本歌集においては、石垣島に住み始めたからこそ生まれたであろう歌に惹かれます。
沖縄の自然や歴史を通して自身を見つめ直すところに、本歌集の歌の魅力があるように感じます。
雨やパイナップル、マンゴーなど島の日々と関連付けて詠われていますが、これらの素材は同じものとして登場することはなく、詠われるたびに新たなものとしての出会いがあります。
地域性と時間軸の両方が深さをもって重なったような一冊だと感じます。
『耳ふたひら』から五首
島時間甘やかに過ぎマンゴーの熟す速度にわれもたゆたう
耳ふたひら海へ流しにゆく月夜 鯨のうたを聞かせんとして
月のない夜にむりりとガジュマルの押し広げたる粘性の闇
壺ひとつ胸に蔵えり美しき雨音あまた蓄えておく
こんなにも激しく雨の降る国に炉心を冷やす水がなかった