問題 – Question
次の歌の【 ① 】に入る言葉は何?
〈風は木をつかむことなどできはせず過ぎてゆくのみ木の【 ① 】を磨き〉 (渡辺松男)
A. 根
B. 眼
C. 芽
D. 気
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解答 – Answer
B. 眼
解説
風は木をつかむことなどできはせず過ぎてゆくのみ木の眼を磨き
掲出歌は、渡辺松男の第九歌集『雨る』の連作「琴」に収められた一首です。
風というものは直接目に見えるものではありません。風が通り過ぎる道筋にある物の揺れや音によって、風の存在を我々は把握しています。
掲出歌の「風」は木に吹いてきた風を詠っていますが、風が木をつかもうとする見方がされています。しかし風が「木をつかむこと」は上句でたちまち打ち消されます。
では風は木を通り過ぎただけなのかというと、そうではないのです。
ここがこの歌のポイントですが、「木の眼を磨き」という表現がとても魅力的に感じます。
木に眼があるという捉え方が斬新ですし、これは木が生きていく上で最も大事な部分を表しているようにも思います。
本歌集には、人間以外の眼が詠われた歌が他にも登場します。
鳥に手をふりたきに手もあらざれば石こそ泣かめ眼のみある石
永遠残暑うなだれてたつひまわりのめだま重しともふにあらずや
眼というのは本歌集のひとつのキーワードなのかもしれません。
さて掲出歌に戻れば、風が通る前と通った後では、木の生命感のようなものがまったく変わってしまった印象を受けます。風によって眼を磨かれた木は、新しく生まれ変わったように、エネルギーに満ちあふれた存在としてそこに立っているようです。
風と木の邂逅から生命を感じさせてくれる一首だと思います。