問題 – Question
〈ひらきたる眼は牢の門 対岸はゆふぐも照るを自転車がゆく〉という巻頭歌で始まる、渡辺松男の第九歌集は何?
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解答 – Answer
『雨る』
解説
『雨る』は2016年(平成28年)に出版された、渡辺松男の第九歌集です。2002年(平成14年)以降の作品457首が収録されています。
著者の歌を読んでいると、植物、動物、空、陽などの天体その他あらゆるものとの境界というものが存在しないのではないかと感じてきます。
人は自身との境界をもって他者や他の物を認識するのですが、著者の歌にはそのような境界はなく、事物間を自由に行き来するような印象があります。そのあたりが、歌を読んでいて心地いいところですし、また発想の自由さを存分に堪能できるところなのだと感じます。
すべての歌を理解できたり、わかるわけではありませんが、わからなくても何となく惹かれるという歌が多くあるのは、歌のスケールの大きさなのだと思います。
また集中には妻が亡くなった前後における歌も収められていますが、渡辺松男ならではの詠いぶりで、とても心打たれます。
『雨る』から五首
みづのいろは鯉のいろにて鯉みえず鯉をわすれてみづのいろ死す
かたすみのやうに中心のやうにさむさうにあたたかさうに蓑虫
ねむれずにゐるきみのなか海老いろの癌はうごくかだいなみつくか
葱の香に葱そのものが負けてゐるわらつてはゐられないさみしさだ
たんぽぽのわた毛ふはりと浮きあがりおもしろきほど人がみな死ぬ