次の歌の【 ① 】に入る言葉は何?
〈なんでもあり、またなんでもない街、渋谷 人より人の【 ① 】が多くて〉 (千葉聡)
A. 魂
B. 汗
C. 声
D. 影
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D. 影
なんでもあり、またなんでもない街、渋谷 人より人の影が多くて
掲出歌は、千葉聡の第五歌集『海、悲歌、夏の雫など』の連作「3 渋谷へ」に収められた一首です。
若者の街といわれる「渋谷」。渋谷の交差点はイベントがあると人が密集することもあります。
そんな渋谷ですが、何でもあるような街であり、また何でもないような街であると詠われています。確かに何でもそろっているようであり、一方で何でもあるがゆえの裏返しとして、特徴が何もないという見方もできるでしょう。
渋谷の人の多さに注目した歌ですが、「人より人の影が多くて」というところが眼目です。
人が多い渋谷において、その人の数よりも人の影の数が多いというのです。
現実的なことをいえば、街灯の当たり方によっては影が四方向にできるため、一人の影が四つあるということがあります。ですから、人より人の影が多いということが成り立つでしょう。
しかしこの歌においては、そのように捉えてしまうとつまらなくなってしまいます。
そういう現実的なことではなく、むしろ言葉そのままをストレートに受け取る方が歌の魅力が増すでしょう。通常人とその人の影は一対一の関係であるため、人より人の影が多いという状況は、ある意味とても恐ろしい状況であり、人の存在よりも人の影の存在があふれているということです。
人そのものを一人ひとり見るということではなく、人の影を見る、つまりは一人ひとりの固有の存在が見つめられるのではなく、渋谷に集まる人は取り換え可能な存在として見つめられているのではないかということです。
人が多数集まる渋谷は、本来人の数だけ個性があるはずなのに、密集した人々から個が剥がれてしまった集団のようなものではないかと詠っているように感じます。
人とは何か、都会における人の存在を考えさせられる一首です。