問題 – Question
〈光漏る方へ這ひゆくひとつぶの命を見つむ闇の端より〉という巻頭歌で始まる、黒瀬珂瀾の第四歌集は何?
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解答 – Answer
『ひかりの針がうたふ』
解説
『ひかりの針がうたふ』は2021年(令和3年)に出版された、黒瀬珂瀾の第四歌集です。
本歌集で印象深い歌は、妻と児を詠った歌です。
九州での海洋調査の時期において詠まれた家族の歌は、海原と関係する詠いぶりで、広々とした世界を感じさせる歌も多くあります。
また著者は寺の住職でもありますが、その環境から紡ぎ出される生や死を捉えた歌にも魅力的なものを感じます。
普段当たり前のように生きている我々ですが、人が生き続けるということは本来そう簡単なものではないのかもしれません。誰かの助けを借りながら、人は成長していき、その果てとして死が訪れるのです。
親にとって児が成長するということは、うれしい部分もあり同時にさみしさを感じる部分でもあります。そもそも成長とは何なのでしょうか。家族との時間そのもの対する問いを終始発し続けているような感じを受けます。
児も妻も家族ではありながら、ひとりの人間として捉え、そこにこれまたひとりの人間である「私」が登場します。このようにひとりの人と人との関係の中で詠まれる家族の歌が印象に残る一冊です。
本歌集にて、2021年に第26回若山牧水賞受賞。
『ひかりの針がうたふ』から五首
雨に頰打たせて立てる舳先かな生きねばならぬ児の親なれば
言葉を五つ児が覚えたるさみしさを沖の真闇へ流して帰る
ずつとずつと裸族でゐたい一歳児追ひかけて父は朝食逃す
けふひとひまた死なしめず寝かしつけ成人までは六千五百夜
うみそらの澄みゆく朝に切る舵の肌寒を妻と分かちたきかな