問題 – Question
次の歌の【 ① 】に入る言葉は何?
〈ネクタイをまた締めてゆく秋となり【 ① 】のような銀で挟めり〉 (吉川宏志)
A. 小鮎
B. 蜻蛉
C. 瞼
D. 展翅
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解答 – Answer
A. 小鮎
解説
ネクタイをまた締めてゆく秋となり小鮎のような銀で挟めり
掲出歌は、吉川宏志の第八歌集『石蓮花』の連作「掌の水」に収められた一首です。
クールビズが終わり、衣替えとともにネクタイを締め始める人が増えてくる秋ごろ。ネクタイを締めるという行為は、特に久しぶりにネクタイを締める場面ともなれば、どこか気持ちを引き締める役割も担っているように思います。
この歌の一番のポイントは何といっても、ネクタイピンを「小鮎のような銀」で例えたところでしょう。確かにネクタイピンというのは銀色のものが多く、大きさも小さめで、形も横長であり、「小鮎のよう」であるといわれると妙に納得してしまいます。
しかしこの比喩を誰もが思いつくかといえば、それはなかなか難しく、著者の観察眼だからこそ生まれた鋭く独特な表現であるといえるでしょう。
無機質なネクタイピンが、生物である「小鮎」と表現されたとき、ネクタイを締めていく秋がこれから動き出していく様子がよく表れているように感じます。
一首全体を見れば「また締めてゆく」の「また」、「秋」、「銀」など情報が過不足なく、ちょうどいい塩梅で取り入れられています。説明しすぎではないのに状況がわかるようになっている点もとても巧く、秋にふさわしいゆとりを感じる一首ではないでしょうか。