〈君のべろが煙ったように白かったセブンティーンアイスクリーム前〉という巻頭歌で始まる、山崎聡子の第二歌集は何?
『青い舌』
『青い舌』は2021年(令和3年)に出版された、山崎聡子の第二歌集です。
子どもと過ごす時間の歌が多く詠まれていますが、子を見つめる目は一般にいう親と子の関係というよりも、ひとりの人間とひとりの人間との関係の中で詠われているように感じます。
それは生や死といった言葉が度々登場することと無関係ではないでしょう。子と向き合うとき、そこには生と死が同時に立ちあがり、その結果として子は生と死を帯びたひとりの存在として認識されるのではないでしょうか。
また「前世」を題材とした歌も登場しますが、自分が親となって子という人間と向き合う世界と、自分が子どもの頃に向き合っていた世界とが重ね合わせられているように感じます。
子と過ごすことは、ある意味自分の幼少期を再度生き直すことと同義なのかもしれません。祖母、母とかつての自分との関係は、親である今の自分と子の関係として繰り返されている、そんな印象を受けるのです。繰り返されるといっても、まったく同じではありません。自分の立場が変わったことにより、見つめる世界は「前世」のような世界を持ちながらも、常に最新版の世界であることは確かなようです。
本歌集を読んで感じるのは、子というひとりの「人間像」が立ちあがるというよりも、子というひとりの「輪郭像」が立ちあがるというところです。日常の出来事から生まれた歌であったとしても、詠われている歌の世界は時間的にも空間的にも遠くに届いていくような印象があります。ですから、子という存在の内側はブラックホールのように捉えどころがないのですが、子という輪郭だけは強烈に感じることができるように思います。
前世と現世、過去と現在、親と子、生と死、人間と人間など、複数の世界が重ね合わせのように展開され、そこに厚みと深みを感じることができる一冊です。
本歌集にて、第3回塚本邦雄賞。
『青い舌』から五首
西瓜食べ水瓜を食べわたくしが前世で濡らしてしまった床よ
夕立ちに子どものあたま濡れさせて役に立たない手のひらだった
舌だしてわらう子供を夕暮れに追いつかれないように隠した
いっぽんの傘をかざして半身と半身ひしめきあう雨のなか
蟻に水やさしくかけている秋の真顔がわたしに似ている子供