〈眠ってたことに気がつくのはいつも目が覚めてから ひかりのなかで〉という巻頭歌で始まる、鈴木晴香の第二歌集は何?
『心がめあて』
『心がめあて』は2021年(令和3年)に出版された、鈴木晴香の第二歌集です。2016年(平成28年)以降の作品297首が収録されています。
本歌集を通して読むと「境界」という言葉がキーワードの一つとして挙げられるのではないかと思います。
それは人でも物でもあるいは概念でもそうですが、対象との境界というものを意識せざるを得ない短歌が多く詠まれているように感じます。
内と外、わたしとあなた、此岸と彼岸などの空間的な意味での境界もありますし、過去と現在と未来といった時間的な意味での境界も存在します。
著者は境界を明確にすることで、というよりも元々境界があるという前提で対象を見つめることで、世界を捉えているのではないでしょうか。
あとがきには次の一文があります。
世界に入るには鍵がいる。
あとがき
鍵を差し込む場所が境界であり、境界という存在を通して初めて世界に触れていく、そんな印象を受けるのです。逆にいえば、境界なくして世界との接続は実行できないということなのかもしれません。
韻律面については、五七五七七の定型をわずかにずらすような句読点、一字空け、句割れ、句跨りが所々に見られますが、それらは韻律上のアクセントとなり、結果として一首をすんなりと読ませず、読み手の心に引っかかりを残す効果を伴っています。
一首ごとにひとつひとつ鍵で新たな世界を開けていく、そんな印象を与えてくれる歌に満ちあふれた一冊です。
『心がめあて』から五首
白ければ雪、透明なら雨と呼ぶ わからなければそれは涙だ
思い出は増えるというより重なってどのドアもどの鍵でも開く
星に名を与えるようにくちづける問うためだけに問うてもよいか
滑走路を見ているふたりには羽がないから腕を回して抱ける
川もまた国境となる春の夜 また会おうまた会えるまた会う