次の歌の【 ① 】に入る言葉は何?
〈【 ① 】ちかづくとなぜか暗くなる木立の道よほほゑみてゆかな〉 (坂井修一)
A. 盆帰省
B. 誕生日
C. 昇格試験
D. 人間ドック
D. 人間ドック
人間ドックちかづくとなぜか暗くなる木立の道よほほゑみてゆかな
掲出歌は、坂井修一の第七歌集『望楼の春』の連作「吞舟」に収められた一首です。
人生において、大小さまざまなイベントはつきものです。それらイベントを楽しいと思うか、楽しくない、憂鬱だと思うかは人それぞれですし、イベントの内容にもよるでしょう。
この一首は「人間ドック」が近づくと木立の道が暗くなったように感じている歌です。主体にとって、人間ドックを受けることはあまり気の進むものではないのかもしれません。
しかしここで気になるのは「なぜか暗くなる」の「なぜか」という言葉です。この言葉が入ることで、木立の道が暗くなるのは、単純に主体の気の進まない心持ちの表れというふうにいいきることができません。
それよりもむしろ、主体の心とは別の力によって木立の道は暗くさせられているのです。人間ドックの日が近づくと、大いなる自然の力のようなものが働き、木立の道が暗くなったと捉えてみることができます。そして暗くなった理由は、主体もはっきりとわからないから「なぜか」という言葉が挿入されているのでしょう。あるいはわかっているけれども、とぼけて「なぜか」といっているのかもしれません。
通常は、人間ドック憂鬱だなあ、だからその心を反映するように木立の道が暗くなったんだと捉えればいいのでしょう。しかしこの一首においては「なぜか」が曲者です。人間ドックの憂鬱さを木立の道の暗さに投影しながらも、その暗さの源は私の心ではないのですよ、といっているようにも思えます。
まるで、木立の道を暗くした原因を何ものかに責任転嫁しているような歌いぶりですが、ある意味とても余裕のある歌い方で、歌の幅がゆったりとした一首なのだと感じます。