問題 – Question
〈はじめての駅なつかしい夏の午後きいたことない讃美歌に似て〉という巻頭歌で始まる、佐藤弓生の第四歌集は何?
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解答 – Answer
『モーヴ色のあめふる』
解説
『モーヴ色のあめふる』は2015年(平成27年)に出版された、佐藤弓生の第四歌集です。書肆侃侃房の現代歌人シリーズの4冊目として刊行されました。
佐藤弓生の歌は「幻想的」と評されることが多いですが、本歌集もそういって間違いはないでしょう。ただし「幻想的」の一言で本歌集の歌すべてを括ってしまっていいわけではありません。
著者はあとがきで次のように述べています。
幻想は”ほんとうのこと”の種なしには生まれません。「ただロマンチシズムとリアリズムとは、主観の発想に関するところの、表現の様式がちがふのである」と萩原朔太郎は述べています。表象はどうあれ、詩歌は心の真実のためにあると考えます。
あとがき
「ほんとうのこと」とは、「事実」ではなく「真実」を指すのでしょう。真実から生まれた佐藤の歌は、想像力豊かで読んでいてとてもやわらかな印象を受けます。水や雲を詠んだ歌が多いのもそのような印象に影響しているでしょう。角がないというか、どこを切り取っても丸みを帯びているような、そんな歌の数々は静かに読み手の心の奥に染みわたってきます。
『モーヴ色のあめふる』から五首
土くれがにおう廊下の暗闇にドアノブことごとくかたつむり
天は傘のやさしさにして傘の内いずこもモーヴ色のあめふる
ふる雨にこころ打たるるよろこびを知らぬみずうみ皮膚をもたねば
ゆく秋のあかとき贄のあかるさにペルー産バナナ息づいており
底なしの思ひ出、女、スカアトのなかのつめたき渦巻銀河