メールにも筆跡がある祖母からのメールはまるで柿の絵てがみ
田村穂隆『湖とファルセット』
田村穂隆の第一歌集『湖とファルセット』(2022年)に収められた一首です。
絵手紙というと、手書きの味わいのある手紙という印象があります。パソコンで打って印刷した文章ではなく、一枚いちまい手で書かれたところに、また絵が添えられているところに味わい深さとありがたみがあるのでしょう。
掲出歌は、祖母から送られてきたメールの歌ですが、その喩として「柿の絵てがみ」が登場します。
まず「メールにも筆跡がある」と詠い始められています。メールといえば、パソコンやスマートフォンで打つため、基本的には誰が打っても同じ字形になるはずです。もちろんフォントの選択によっては、手書き風のフォントというものはあると思いますが、あくまで手書き風であり、手書きとは一線を画します。
そもそも「筆跡」という言葉自体が、”筆記用具を用いて人の手によって直接書かれた文字”を指す言葉ですから、筆記用具を用いないメールとは相容れないものですが、「メールにも筆跡がある」といい切ったところにこの歌の手柄があるように思います。
メールという電子的な伝達手段の中に「柿の絵てがみ」のような味わいを感じとる感性が豊かであり、「筆跡」という言葉をもって表現したところが魅力的に映ります。
メール一通をとっても、それを単に現代の機械的な伝達手段として捉えるのか、それとも絵手紙のような思いのこもった一通捉えるのか、それは受け手側に委ねられますが、どう捉えればより豊かに心が満足するのかいった点までも考えさせられる一首なのではないかと感じます。
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