帰ったらアプリで麻雀すると思うドラッグストアに安いお豆腐
平出奔『了解』
平出奔の第一歌集『了解』（2022年）に収められた一首です。
この歌は上句の「帰ったらアプリで麻雀すると思う」と、下句の「ドラッグストアに安いお豆腐」の二つの部分に分けられると思います。
直接関係のなさそうな場面が二つ並べられており、この歌の意図するところを汲みとるのは難しいと感じます。
まず上句と下句の時系列的な順番を考えてみたいと思いますが、上句が先起こって下句が後で起こったとみるか、あるいは下句が先にあって続いて上句が起こったとみるかで少し状況が変わるかもしれません。
まずアプリで麻雀をするだろうと思って、その後にドラッグストアで安い豆腐を見たというケースがひとつ。もうひとつはドラッグストアで安い豆腐を見て、それがきっかけで麻雀をしようと思ったというケース。
前者では、上句と下句に直接的な関係は薄いように思います。たまたま麻雀をすると思って、たまたま豆腐を見たという状況が強く感じられます。日常に起こったことを順番に並べた歌の読み方といってもいいかもしれません。
一方後者は、上句と下句に何らかの関わりがあるように思われる読み方でしょう。ドラッグストアで安い豆腐を見たことが、アプリで麻雀をするだろうという状況を引き起こす原因になっているからです。しかし、「アプリ」「麻雀」と「ドラッグストア」「安いお豆腐」と一体どうつながっているのでしょうか。
このあたりは主体において何か思うところがあったのかもしれませんが、読み手がはっきりと関連づけできるものを見いだすことは難しいのではないでしょうか。それほどに、この上句と下句は距離的に離れすぎている状況だと思います。
誤読を恐れず、強いていうならば、麻雀牌の「白」と豆腐の四角い形状と色とがうっすらと重なり合わないこともないかなというところです。ただ、豆腐を見て麻雀牌の「白」を思い出すということが現実的なのかといえば、首を傾げるところもあります。
状況をつなげて読もうとすればするほどよくわからなくなる歌ですが、そのわからなさが気になる一首です。
