手品の歌 #3

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手品の短歌

春の夜に妻の手品を見ていたり百円硬貨がしろじろと跳ぶ
吉川宏志『青蟬』

吉川宏志の第一歌集青蟬あおせみ(1995年)に収められた一首です。

手品にもいろいろと種類がありますが、手から手へコインが移動するマジックを「コインズ・アクロス」といいます。そしてその中でも銀貨を使った「ウィングド・シルバー」というマジックはよく知られています。

四枚の銀貨が右手から左手に一枚ずつ移動するという、現象としてはとてもシンプルなマジックです。しかし、シンプルがゆえにこれを巧く行う技術としては相当レベルの高いものが求められます。

掲出歌を読んで、そんな「ウィングド・シルバー」のことを思いましたが、この歌で使われたコインは四枚ではなかったかもしれません。

ただコイン(百円硬貨)が移動するマジックであったことは間違いないでしょう。さてこの百円硬貨ですが、跳ぶところを見られてよかったのか、見られてはまずかったのかという当たりで読みが変わってくると思います。

跳ぶところが見られることで成立するマジックとして見た場合、「しろじろ」の意味は白く見えるさまや、夜が明けていくさまを指しますので、「春の夜」そして「百円硬貨」の銀色に光るさまなどと通じてうつくしく雰囲気のある歌だと感じます。

一方、跳ぶところを見られてはまずい場合はどうでしょう。コインマジックというと、コインが移動するところを相手に見られないように手の中に隠して行うのが普通です。そうなるとこの歌で百円硬貨が跳んでいる場面が目に入ったということは、妻の手品があまり上手にいかなかったということではないでしょうか。拙いけれども、手品を見せてくれた、そんな二人の関係性が浮かびあがってきます。

つまり「しろじろ」は「白々しい」の意味合いで使われていると見た方が、この一首の味わいが出るのではないでしょうか。本当は跳ぶところは隠されていなければならないのだけれど、跳ぶところが思わず明るみに出てしまったという感じで、春の夜に百円硬貨が跳んでいるところがまさに目の前の出来事のように実感を伴って伝わってくるのです。

言葉の意味と、歌の捉え方はさまざまあると思いますが、後者の意味合いで読みたい一首です。

銀貨
銀貨

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