白い鳩売るこの店の顧客名簿マジシャン含有率高し
田中有芽子『私は日本狼アレルギーかもしれないがもう分からない』
田中有芽子の第一歌集『私は日本狼アレルギーかもしれないがもう分からない』(2023年、新装版)に収められた一首です。
マジシャンと聞いて思い浮かべる姿は、タキシードに白い鳩のイメージではないでしょうか。もちろんマジシャンは、カードやコイン、ロープなどさまざまな道具を扱うので、鳩の出現マジックだけが手品ではありませんが、どうしても白い鳩のイメージがつきまといます。
さて、「この店」はマジック専門店でしょうか、それとも直接的にはマジックと関係がないけれども、鳩を売る店なのでしょうか。「白い鳩」を売っている店ではありますが、白い鳩を買う客はどういった客層なのでしょう。マジシャンがその客層に含まれていることが詠われています。
面白いのは、顧客名簿にマジシャンの名前が多いという表現ではなく、「含有率高し」といういい方です。「含有率」といえば、通常は鉱石や混合物などの物質に対して使われる言葉であるため、それを人であるマジシャンに適用している点が特徴的です。
顧客名簿をひとつの物質的なかたまりと捉えて、その中にマジシャンが占める割合が何割くらいといった感じでしょうか。「高し」といういい切った表現もはっきりしており、白い鳩を購入するのは、かなりの割合でマジシャンが多いのだと思います。
歌は、静的な顧客名簿が中心となって詠われていますが、その背後に数多のマジシャンが次々に白い鳩を買いに来る様子が浮かんできて、歌全体としては動きを感じる一首となっているのではないでしょうか。



